随想「木刀を振り回すなんて危ない!」

とはいつだったか、人通りのないところで一人稽古として木刀の素振りを至極ゆっくりとしていた時に、偶然そこを通りかかった人に言われたことです。まあ、いきなり木刀を持っている人がいたらびっくりしますわね(笑

さて、木刀の素振りって危ないんでしょうか?私はそうは思いません。広場や公園でよく見かける、野球のバットの素振りやゴルフの素振りの方が遥かに危険です。その理路を簡単に説明します。

木刀はご存知の通り、刀の形を模した木製の棒です。刀が破壊力を有するのは刃物であるからに他なりませんが、木刀は刃物ではなく、ただの棒です。鍛錬用の特殊な物でもなければ重さも500g程度です。その形状から、重心は結構柄側に寄っており、刀として振っているうちは大した破壊力を持ちません。

野球のバットはどうでしょう?重さはアマチュアの金属バットであれば900g以上という規定があって、それ以上の重さがあるし、芯とよばれる、当たれば一番打球が飛ぶ箇所は先端方向にあります。ゴルフのクラブもその重さのほとんどがヘッド側にあります。これは、野球バットやゴルフクラブに共通していることですが、「如何に小さな力で、多大な衝撃をボールに与えられるか?を考え抜かれた形状、能力を有している。」ということです。木刀とは全く性質が異なるわけです。というか、木刀はそんなことを考えて作られていませんからね。

野球のバットやゴルフクラブは、本腰で振らずに手に持って軽くぶらぶらさせるだけで大きな破壊力を持ちます。それ故の事故もあるもので、空振り三振になったバッターが自分の出番は終わりとばかりにガバガバに油断してバットを肩に担いで去り際、振り逃げをタッチしに来たキャッチャーの方を振り向いた拍子にバットがキャッチャーの鼻を直撃して、ただならぬ量の流血になることもあります。ちなみに実際にその光景を見たことがありますが、見た目にはコツリと当たっただけなのに大袈裟に痛がるなあと思っていたら、キャッチャーの子は意識が朦朧としておりましたので、見た目にはない衝撃が彼を襲ったようでした。

ゴルフクラブも同様です。赤ちゃんが持ってちょっと振っただけで窓ガラスや高級そうな壺がかち割れるといったような微笑ましい(?)動画が、YouTubeにごまんとあるじゃないですか。

実感を伴いたいという探究精神旺盛な方には、バット・ゴルフクラブ・木刀で、同じような力加減でスイカ割りをすることをお勧めします。バットだとスイカは弾け飛びますし、ゴルフクラブはヘッドがエゲツなく食い込みます。ところが木刀は下手するとポコ!っと弾かれますし、余程上手に刃筋がたってもほとんど切り込めません。スイカが人の頭だと想像すると背筋が寒くなりますね。

ちなみに、木刀でもバットほどではないですが、威力を上げる振り方があります。それは、柄と切先を反対に持つだけです。切先の方を握って、柄の方を叩きつけるんです。先にも書きましたが、木刀は柄側に重心があるため、この持ち方ですと破壊力が上がるわけです。まあ、刀としての使い方ではありませんけどね。

さあ、いったいどれほどの人が、上記のようなことをご存知でしょう?
私の剣術の先生がおっしゃっておりました。「なにが危なくてなにが危なくないのか、なにが怖くてなにが怖くないのか、それを見極められる目がなければ、稽古にならないし、その目を養うために稽古がある。」って。

ですので私は少年部で木刀を扱う時は、絶対に逆に持って振るなと言っております。