随想「自由度」

私は工業高専の出身で、学部はロボット工学のような学部でした。
ロボットの設計を学ぶ際、「自由度」というものを勉強しました。今回はそんなお話です。前置きがメチャ長いですが、最後はちゃんと合氣道の話に持っていきます。

自由度とはごくごく簡単に言ってしまえば、関節の数のことです。人間を例にすれば、肘は曲げ伸ばししかできませんので1自由度です。手首は手の甲・掌方向の曲げ伸ばし、親指小指側への屈曲、手首の回転の、合計3自由度です。
ロボットでは、動かすためにはモータが必要ですから、モータの数が自由度となります。(ピストン運動も結局はモータが必要です)

さて、本当は図があればいいのですが、頭の体操です。
いまxy平面上に点Pがあります。そして腕の長さが十分に長いロボットアームがあります。このロボットアームの先端と点Pを一致させるためには、自由度は最低いくつ必要でしょうか?

答えは2です。

原点に1自由度、アームは2本でその間に1自由度です。イメージとしてはショベルカーの腕のようなものですね。

次に、同じ点Pに、何かモノを「向きを決めて」置こうとすると自由度はいくつ必要でしょうか?先ほどの自由度2ですと、点Pは指し示せても、向きを変えられません。ここは、ロボットアーム先端に自由度を1足して自由度4にします。イメージとしてはショベルカーの先っちょのスコップがグリグリ向きを変えているようなものです。

さて、自由度2にしても3にしても実は正解を満たす腕のポーズ・通り道は二通りしかありません。腕を上から延ばして下に曲げるか、下から延ばして上に曲げるかの二通りです。
ここでさらに自由度を1足して、自由度4のアームを用意すると、どうなるでしょう???
なんと、点Pに好きな角度でものを置くポーズを無数に選択できるようになります。
この、最低限必要な数以上の自由度があることを「冗長自由度が高い」と言います。

なんだかよくわからん話と思うかもしれませんが、卑近な例に例えると、棚の後ろに落ちたものを拾うとき、肩やひじ、手首が当たって届かない。あと関節が一つでも増えたら届くのに!!タコみたいな腕なら届くのに!!という感じです。そう、タコの足は自由度が無数にあるからあんなに自由に隙間に足を突っ込めるのです。

さあ、以上が前置きです。長い!!自分で読んでも長い!!どうにかならんのか!?

人間の身体は冗長自由度が非常に高いです。手先を目的の場所に持っていくだけならどんなポーズでも可能です。おしとやかに持っていくもよし。エガちゃんのように持っていくもよし。鼻をほじりながら持っていくもよし・・・。

合氣道で技を行う場合、手先の動きだけ見ていると、冗長自由度の高さ故に、手先以外がおろそかでも動けてしまうんです。手首を取った感触を頼りにする稽古方法もありますが、冗長自由度の高さゆえに感触(接触圧)は同じでも、体の構えが異なる場合があります。
また、合氣道は手首を取ってからスタート、感触を味わってからスタートではありません。
取られる前から技は始まっていますし、動いている最中も気は抜けません。

「感触は悪くないんだけどなぁ・・・その動き方では正中線ががら空きに見えるんだけど・・・」というようなことが往々にしてあります。

手先足先・体のポジショニングも悪くない、感触も悪くない、正中線がしっかりあってスキがない・・・。そんな技・合氣道を求めて稽古したいと思っています。