随想「私淑」

今回は合氣道や武道とはあまり関係ないお話です。

私は非常に多趣味なんですが、その中にオーディオ機器の工作があります。音楽鑑賞ももちろん好きなのですが、その音楽を鳴らすスピーカーだのアンプだのを自分で作るわけです。電子回路の図面を書いて、計算をして、必要な部品を一つずつ選定して購入して、半田ごてやらドリルやら使って作るわけです。最近はとんとご無沙汰なのですが、今でも部品類やら測定器具やらはちゃんと保管しています。

で、どうやってその辺の知識というか技能というかを身に着けたかというと、小さいころから工作が好きで手先が器用で高専に入って物理や数学や電気電子の座学もやっていたというのはあるんですが、高専の卒業研究で真空管のアンプを作るなんてことをしたのがきっかけかなあと思います。

その卒業研究の参考にいろんな本を読んだりホームページを参考にしたりしたのですが、一番参考にしたホームページがあります。そこは管理人さんが一人で運営しているホームページで、工作をする人のために質問用のBBSがあって、悩める人を指南したり、手に入りにくい部品を実費で頒布してくださったり、オーディオ工作の著書もあるなど、管理人さんはオーディオアンプビルダーの間で知らぬ人は居らぬというほどのお方です。また、ホームページはオーディオのコンテンツだけでなく、生活や音楽に関するいろんなコンテンツがあり、どれも非常に美的センス・クオリティの高いものばかりです。

私は直接お話をしたことはなく、部品の頒布を数度利用させていただいた程度なのですが、管理人さんと、そのホームページには大変な影響を受けました。私はホームページの全てから、またご著書から、そしてそれらからあふれ出るお人柄から、いろんなものを学ばせてもらいました。とてもここには書ききれません。

そのホームページがあったから私は電子工作ができるようになったのです。高専を卒業できたのです。他の趣味のギターと合わせて、器材関係に明るくなれたし、おかげで団体行動に向かない性格ながらバンドやPAの真似事をすることができました。妻とはそのバンドで出会ったのです。そして今の、子供のいる生活ができています。まさに 有形無形の贈与を頂いてきたと胸を張って言えます。なんだか変な言い回しですが。私の人生のキーパーソンのおひとりです。間違いありません。

しかし数週間前に、管理人さんが不治の病を患ってしまわれたと知りました。
感謝を伝えようにもキーボードを打とうとする手が止まってしまいます。
多大なものを頂いてきた自覚があるのに、何もできない自分の無力さを感じています。

私淑

直接に教えは受けないが、ひそかにその人を師と考えて尊敬し、模範として学ぶことを言います。直接教えを受けることは師事もしくは親炙と言います。